HIMF2010 チラシでの芸術監督ご挨拶

八ヶ岳「北杜国際音楽祭(HIMF)」も今年第5回目を迎えます。その途次に起こった世界を覆う経済危機下に民間の力を糾合しても、目標とする「東西音楽交流のメッカ創り」を追求することは途方もない冒険であることを痛感させられていました。ところが、事業仕分けなど世間の趨勢とは逆に、世界に稀なテーマと、地域の人たちとの密な協力を期待する国からのサポートを得られることになり、今年も音楽祭の開催が出来ます。
20年前、東西問題の中でアジアの大切さを力説しても、日本人の反応は希薄なものでした。それが今は、我々にとって避けて通れない死活の問題であるという実感を、問わなくても誰もが感じています。しかしその実感を文化芸術が大きな力で支えなければ、アジアの人たちからも欧米からも日本は疎んじられるでしょう。世界人であるためにアジアの人間である証しを、今年もこの音楽祭は先ず示し続けます。中韓からの招聘アーチスト、日本の若い音楽パワーが爆発する夏の高原を満喫してください。

8月の初日、日本の管楽器・打楽器アーチストの登竜門であるコンクールで、各楽器にとって4年に一度というチャンスに優勝した俊秀に腕をふるってもらいます。今回は昨年開催部門からフルート・ユーフォニアム・トロンボーン、そして前の回に機会を得た打楽器の4人の優勝曲(ピアノ伴奏)を中心に、最後はみんなでポピュラーな名曲の数々を楽しく奏でてもらうつもりです。
そして地元長坂に目を向け、地域ないし中央で活躍中のジュニア・シニアのコンサートで、意外と知られていないレヴェルの高さを認識していただきます。
オルガンは織田信長が聞いたという、三味線より早く日本に入ってきた西洋楽器ですが、美しい星と森の教会で、この音楽祭音楽監督でもあるスイスを中心にヨーロッパで活躍中のシズカ楊静との協演が楽しみです。
■  そして原爆の日、日本の高齢社会の元気さを象徴する最高の男声合唱団による、部分ながら東西のレクイエム名作や、あっと驚く隠れたヒット作品=モノオペラ《ベロ出しチョンマ》、共に招聘アーチストであるシズカ楊静と上海音楽学院二胡教授である陳春園による楽しみなduetと、楊静の秀才振りが聞ける合唱を背負った二つの名作演奏という豪華公演。
クライマックスはもう一日続きます。毎回この音楽祭に欠かせないシリーズ「アジア音楽紀行」は第4回となり、アジア アンサンブル(馬頭琴・中国琵琶・大三絃・尺八・新筝というモンゴル、中日の代表楽器最高のソリストによる)に、二胡と韓国(杖鼓と08年聴衆を沸かせた李周妃の5面太鼓)等を加えて、東アジアの粋をお聞かせするよう企画しています。
今年はジャズも登場です。アルソア野外劇場では、昼間から山梨県のジャズメンたちのノリにノッタ演奏が繰り広げられます。
今年、私は37年かけた「三木稔、日本史オペラ9連作」を第9作《幸せのパゴダ》で完成させることが出来ました。2006年新国立劇場委嘱初演の第8作《愛怨》は、2月から6月までドイツのハイデルベルク劇場で8回上演され、素敵な批評と、毎回ほぼsold outという現代オペラの稀な記録を作ったようです。今回のテーマ作品は「20世紀にこんな美しいメロディーが生まれ、感動されているなんて奇跡」とアメリカでの世界初演でも日本初演でも称えられた第3作《じょうるり》の英語版を、日本語版とDVDで見比べながら、劇中曲の生演奏も聞いていただきます。また《愛怨》ヨーロッパ(ドイツ)初演の報告のなかに楊静の演奏した琵琶秘曲《愛怨》の生演奏をしてもらいます。
最後の日には、核廃絶を訴えて各地で公演しているチェコのチェロ一家の演奏に音楽祭が協賛いたします。広島の日のレクイエムを頭の隅に残しながら、海外からの反核の声に耳を傾けてください。

国は、制作する我々だけでなく、地域の方々との共同作業で、東京一点に偏りが目立つ日本の音楽現場を創成する気運醸成に賭けています。是非、様々な形で皆様の参加をお待ちしています。まずは是非この内容を聞きに来てください。     

三木 稔(HIMF芸術監督)


三木 稔