私は香港中楽団HKCO=Hong Kong Chinese Orchestraが主催する「第4回中国音楽国際シンポジウム」の講師として10月13日から16日香港を訪問した。私に求められていたプレゼンテーションの内容は「異なったアジアの国々における伝統音楽の遺産と改革」というもので、私自身の実践の報告でもあり、アジア共通の問題を提起して来た私にとって、英語で纏めるいいチャンスだと考えた。
しかし私は13日夜のHKCOのコンサートで予期せぬ感動に打ち震えた。
1999年中国に編入されて落ち込んだ香港で、このヴァイタルな大成長は何たることだろう。見るからに知的だが、極めて柔和に見える指揮者で音楽監督の閻恵昌Yang Huichangが、よほど音楽能力に加え統率力があるのだろう。政府に切られた助成にくよくよせず、たくさんの民間会社をスポンサーにつけて、楽団の財政は倍増し、楽団員90人、事務所40人の大陣容になったHKCOにまず驚かされたが、音楽がまた凄い。このコンサートで初演された北京の作曲家、程大兆Cheng Dazhaoの40分になんなんとする《楽隊協奏曲Concerto for Orchestra》を聴いていて、次にこういうものが欲しいと私が思った楽想が、その通り展開されたのだ。この、これまで中国で聞いた最高の作品と演奏で、HKCOはまさに中国のリーダーでもあり、世界の民族音楽界の英雄といって過言ではないと私は思った。
次のシンポジウム初日は、全世界から集まった関係者たちが民族オーケストラの問題点をペシミスティックに討議することに終始していた。私は発言の機会を捉えて、彼らの驚くべき達成と明るい未来の構図を心から称揚し賛美した。そこからシンポジウムの雰囲気は一変し、続く発言はどれも自信に満ちた明るいものが連続し、司会者は大喜びだった。
私はこの楽団から新作委嘱を打診されていたが、書く時間の予測も立たない現状を省みず、帰国後09年に書けたら書きたい、と返事した。早速さまざまな資料が送られてきた。この積極性はきっと沢山の秀作を今後産み出すに違いない。