昨年新国立劇場で世界初演されたオペラ《愛怨》のハイヴィジョン録画がDVDとなって世界中に発売される計画が(株)TDKコア(日本での発売元はコロンビアレコード)で進められているが、更にこの先に、収録済みの《源氏物語》と《じょうるり》も合わせ、誠心誠意このプロジェクトを推進してこられた「結の会」の落合良会長が昨年から各種権利問題の解決に努めておられるが、もう一歩のところにいる。新しい予定どおりだと発売は2008年4月、ご期待ください。
【5月10日追加情報】 《愛怨》DVD発売のための権利問題は、落合さんたちの努力が実って見事にクリアされ、(株)クリエイティヴ・コア(社名変更)/(株)コロンビアミュージックエンターテインメントhttp://cc.columbia.co.jp からDENONレーベルで5月21日に発売・販売開始される。DVDを購入すれば、日本語と英語の字幕が自由に選択して見られる。
一方、《愛怨》には強い上演希望が今年の中国の大きなフェスティヴァルから寄せられている。私は「日本史オペラ連作」であっても、常に国際的な上演を意識して各オペラを創ってきた。遣唐使を扱う《愛怨》は、作曲時、靖国問題に発して、サッカーゲームでのブーイング事件など嫌日ムードがクローズアップする中で、台本の中国語版(王小燕訳)を自前で用意し、王さんを通して中国人の率直な反応を知り、歴史や民族気質など内容への気配りを完璧に果たしたうえで書き進めた。自分のオペラで日中の文化交流と友好関係を築くのだという気概を自らに課しつつ、将来中国での頻繁な上演が可能なスコアに仕上げてある。早くも届いた上演希望に、「わが意を得た」感がある。尤も、歌うための中国語版までは用意できていないので、日本のオペラ団体が日本語で公演して中国語の字幕をつける、という国際的な方法で中国人の心を捉えるのが先決である。
しかし、仮に十分な資金があったとしても、日本のオペラ団体に依頼して、半年先にこの大オペラを上演する状況を作り出すことは、どう転んでも無理であろう。2〜3年の準備期間が必須である。それはさて置き、現在の問題は、日本には自国産の優秀なオペラを創造し、度々の再演でレパートリー化し、国際的なオペラ先進国に名乗りを挙げる気概など、さらさらないことだ。オペラ作曲家としては、この哀れな国に生まれたことを悔やんでも詮方なく、この素敵なハイヴィジョン録画、そしてDVDの発売で、自作が世界を駆け巡ることができるのを幸せとし、自分の力でできる新たな創造行為を進めるしかない。この録画プロジェクトの先頭を切って、困難の山を一つ一つ乗り越えながら推進してくれている落合良さんの先見の明に、何度感謝しても足りない思いである。次第に増えてくる協力者の皆さんにも、心から「ありがとう」と申し上げる。さて、作曲家三木稔は、昨年フォークオペラとして初演した《幸せのパゴダ》を元に、全てのせりふの歌化、伴奏を付与、器楽のオーケストラ化をした完全オペラ版《幸せのパゴダ》にするため、3月から1年以上はかかる創作を開始した。そのための岩田達宗台本の要を得た改訂版も届き、現在第3場のヴォーカルスコアが完成間近である。「三木稔、日本史オペラ連作」は8作で終わらない。真の最終作、20世紀(現代)題材の第9作としての登場を期待してお待ちください。
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