《幸せのパゴダ》


2009年3月11日 三木稔

一方で私は、昨年徳島の国文祭グランドフィナーレで初演したフォークオペラ《幸せのパゴダ》が、当時あまりに上演条件が悪く、練習中から若手最高のオペラ演出家である岩田達宗と話し合って、台本から全面的に書き直してもらい、完全歌化・オーケストラ化して、日本史オペラ連作最後の第九番《幸せのパゴダ》として作曲し直す決意をしていた。昨年10月、2時間のボーカルスコアが完成(それまで既に2年以上の作曲時間を要している)。ある劇場がやるという情報があったので、完全オペラ化を急いでいたが、責任者が代わって企画が立ち消えたようで、やり始めていたオーケストレーションは1年くらいかけてゆっくりやろうと方針を改めた。しかしこの頭の手術、がんの状況が起こって命のほうが問題で、12月に「これは頑張らないと仕上がらない」と強烈なプレッシャーに襲われて方針を戻し、入院中の狭い机でもせっせと書き、正月もなく、人が見たら鬼神のような頑張りで、2月7日、無事450ページのオーケストレーション(ボーカルスコア150ページ、そのデッサン100ページ)を終えた。若いとき以上のスピードで、休みなく頑張った自分に驚いている。
このオペラ《幸せのパゴダ》には、途中5分ほどの劇中劇があり、今あるversion 1とは別にoptionで選べ「あの戦争は何だったのだ」と問いあうversion 2の台本を岩田さんにお願いしている。その部分が出来るまでリーチの状態だが、36年かけての夢だった、一定のテーマを持ったオペラ連作として空前で絶後と思われる、ヒマラヤ連峰のような「三木稔、日本史オペラ9連作」縦断が夢で無くなった。


三木 稔