今から20年前の1990年に、アジアの文化交流都市を目指す福岡市が、欧米人も含めアジア全域から、アジアの「芸術・文化」と「学術研究」分野での伝統と創造への貢献者を顕彰する「福岡アジア文化賞」を創設したと知ったとき、ノーベル賞のような国際賞を持たない音楽人として、この賞に自分が推薦されるに充分な実績を残すことが、アジアをライフワークの一つとして務めている自分の目標だと、秘かに思ったものでした。
そして、その想い叶って、このたび第20回「福岡アジア文化賞」の「芸術・文化賞」を不肖私が受賞することになりました。芸術・文化賞の初めての日本人受賞者だそうで、大変光栄なことです。
昨年までのこの賞のことは、インターネットで直ぐ判ります。1990年に福岡市によって創始され、黒澤明さんなどが創設特別賞を受け、以後毎年4人受賞者が選ばれていますが、大賞、学術研究賞、芸術・文化賞に分かれ、毎年1人の「芸術・文化賞」は、ドナルド・キーンさんが最初で、日本人は受ける人がなく、20年経った今回、初めて私が全芸術・文化関係者を代表して受賞しました。戦後からずっと日本・アジア・西欧を平等に捉え、その「共生」にとどまらない「共楽」を、今後の音楽文化の目標において努力してきたことが、「アジア文化賞」という名で結実したことを、光栄かつ誇りに思います。
私はすでに79歳、あと何ほどのことができるか判りませんが、《春琴抄》に始まり、今世紀に初演された《源氏物語》《愛怨》で8作に達した『三木稔、日本史オペラ連作(現在第9作が完成直前)』を代表とするオペラや、東西管弦楽を結ぶ『鳳凰三連(Symphony for Two worldsを含む)』『大地の記憶』等の国際的かつ大規模な作品創造のみならず、邦楽器・民族楽器の現代化・国際化のために、作品創造とプロデュースの両面で、誰もやらなかった実行をしてきました。その難行程の途中に、《マリンバ・スピリチュアル》のように欧米で1万回を超えて演奏されている拙作の国際的な愛奏曲が、音楽の各ジャンルで現れ、国境を越えて生きつづけている情報が間断なく齎されたことが、常に希望と新たな創造のエネルギーを補給してくれました。
日本人が独自のアイデンティティを持って世界で輝くことのできる、それら未完の仕事のために、最後の瞬間まで頑張ると同時に、巨大な仕事のために果たせなかった、身近な心休まる小品を、少しでも書き足したいと思っています。今は、今秋の静岡国民文化祭に参加する御前崎市のNPOから頼まれた1幕の小さなオペラを書いています。予算がないのを逆手に取って、誰でもどこでも上演できる愛すべき小オペラを目指して。
歳を取ると、予測しなかった様々な障害が襲ってきます。でも頑張ります。長年に亘る、各方面の皆さんのご協力を心から感謝しながら、是非もうしばらくお付き合いをお願いいたします。