松林細路 The Pathway through a Pine Forest


さて、12月のもうひとつの「三木稔箏作品の夕べ」は韓国ソウルで「松林細路The Pathway through a Pine Forest」という詩的なタイトルで、12月21日20:00より中央大学アートセンターのメインホールで行われた、《松の協奏曲》《瀬戸内夜曲》、《三つのフェスタル・バラード》、そしてフォークオペラとしてパンソリ歌手と伽耶琴の共演に影絵も用いた《ベロ出しチョンマ》の韓国初演という全三木作品による、文良淑“Moon Yang-sook Solo Concert”であった。
 1974年奈良で生まれた若い彼女は、中央大学を経て現在ソウル大学で教えながら、韓国国立国楽管弦楽団の伽耶琴ソリストであり、若くして最高の実力者と内外での活動が続いているが、父の出生地の関係で(中国から入っていた)21絃の箏を学ぶべく北朝鮮の高校に進んだ彼女は、卒業時、著名な金剛山歌舞団に内定していた進路を妨害されて、失意の中で奈良に戻り、3ヵ月後改めてソウルの中央大学に入りなおして22絃や、後25絃の伽耶琴で頭角を現して現在に至っている。《ワカヒメ》の岡山での上演や「北杜国際音楽祭」にも招聘したが、爪を使わない伽耶琴なのに強い指による、新箏にも劣らない音量と超絶技法の持ち主であるうえ、《松の協奏曲》を韓国のすべての国楽管弦楽団と共演して紹介し、その西洋オーケストラ版を私に委嘱して09年初演。また《華やぎ》など私の箏作品の紹介者として韓国での大きな役割を果たしてくれている。
 伽耶琴教師としての彼女の指導力・カリスマ性も半端でなく、今回の《瀬戸内夜曲》は現役の大学生チーム、《三つのフェスタル・バラード》は卒業生ながら社会人として活躍中の若い美貌揃いの女性チームが、海外公演のために生じた文さんの企画遅れを察知して、徹夜の練習で挽回するという強烈なバイタリティーを発揮し、きわめて柔軟な指揮・指導で感心させられた若い指揮者にも乗せられて演奏した。6月のドイツ行き以後、海外は行くまいと半分決めていた私は、秋に落ち込んでいたモチヴェーションをすべて回復することに成功した。20日から23日までのソウル滞在中は、たまたま北の砲撃でソウルが危ないとの風評も強かったが、暖かい天候にも恵まれて、帰国後現地のマイナス15度などという悲惨な状況にも遭遇することなく、1999年頃以来ご無沙汰してきた韓国へのイメージを一新して、新たなアジアへの共同作業を誓い合って帰国することができた。


三木 稔