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三木稔 オペラ日本史連作 作品紹介

ワカヒメ オペラ全3幕
作曲年◆1991年
作・台本◆なかにし礼(日本書記の史実よりの創作)
英語版◆Colin Graham(2005)=未上演
時と場所◆5世紀吉備、大和、伽耶、新羅
関連する当時の芸能◆この時期、日本に芸能は確立しておらず、伽耶王が作ったといわれる伽耶琴が第二幕冒頭に登場する

ストーリー◆当時強大であった吉備国の王や武将、その妻たちが集まって国の将来を論じているところに、大和から武(タケ)の大王=雄略天皇がやって来る。吉備の王の一人田狭には自慢の美しい妃のワカヒメ=稚姫がいるが、大王は田狭を伽耶・新羅に送り、その留守にワカヒメを大和に連れ去る。ワカヒメは、星川皇子を擁して反乱を起こすが、またも大王の策略にはまり、吉備の援軍も空しく、帰国した田狭とともに焼け落ちる大蔵殿に消える。日本の中央集権化過程を描き、朝鮮半島との古代の交流をも示す壮大なグランドオペラ。

登場人物◆ワカヒメ(Sop)、吉備上道臣田狭 (Ten)、武の大王 (Bar)、ワカヒメの侍女かつらぎ(M-Sop)、巫女(Alt)、兄君(Ten)、弟君(Bar)、弟君の妻クスヒメ=樟姫 (Sop)、下道臣前津屋(Bas)、おおぞら=虚空(Ten)、小根(Bas)、吉備の臣たち=3幕では両軍の将に、臣たちの女房=ワカヒメの侍女たち、ほか21歌手と混声合唱=吉備の群集、男声は第3幕では軍勢
楽器編成◆オーケストラ(3.3.3.3-4.3.3.1-4Perc-Str)(2管編成版あり)と伽耶琴(オケで代行可)
音楽総時間◆2時間25分
アリアなど◆《序曲》、前津屋《吉備魂の歌》、吉備の女房たち《歓迎の歌》、田狭《天下に美女は》、ワカヒメ《登場の歌》、大王《美しき籠を持ち》、混声合唱《わが君に栄光を》、男声合唱《いざ出発の歌》、ワカヒメ《蝶の歌》、大王《お前の心を》、ワカヒメ《我が子よ》、田狭《許すまじ》、侍女たち《二羽の蝶々》、クスヒメ《大和は不滅》、虚空《お前は吉備の伝令だ》、田狭《田狭の帰還》、田狭《吉備が欲しければ》、ワカヒメ《悲しい眺め》、田狭+ワカヒメ+混声合唱《田狭とワカヒメ》

委嘱初演者◆岡山シンフォニーホール(開館記念)
世界初演◆1992年
ワカヒメ:宇佐美瑠璃、田狭:日高好一、武の大王:平野忠彦、クスヒメ:塩田美奈子ほか
指揮:飯森範親、大阪フィル、《ワカヒメ》合唱団、伽耶琴:原谷治美
演出:なかにし礼、装置:岩井正引、衣装:コシノ・ジュンコ、振付・小井戸秀宅+尾上菊紫郎
東京初演◆1993年、NHKホール(20周年記念)
岡山再演◆2007年2月岡山シンフォニーホール,
→新聞報道(山陽新聞)
岡山再演ステージ写真


出版◆三木音楽舎(日本語版・英語版ボーカルスコア)
CD◆三木稔作品選集5(東京初演初日ライヴ録音)Camerata30CM-443〜4
上演回数◆3次6ステージ(2005年まで)

作曲者ノート◆『近世三部作』が完結した私の歴史オペラへの興味は、鎖国下の近世特有の約束事に縛られない遥か古代の題材に向かった。日本は古代から国際国家であったという事実を、私は次なるオペラ連作で証言する意思を持ち、作品規模としても、グランドオペラを幾つか書き残すつもりであった。
 たまたま岡山にオケピットを持った大きなコンサートホールが誕生することになり、当地の旧制六高で青春時代を過ごした私が、岡山題材のオペラ創作を任された。すでに数年間に亘って古代の資料を読みふけっていた私は、日本書記に加えて岡山の史書から5世紀・稚姫(わかひめ)の史実を発見した。雄略天皇時代の大和、そして伽耶・新羅・百済を巻き込んで起こったそのドラマは、日本のグランドオペラの題材として、これに勝るものはあるまいと感じて狂喜したほどであり、大衆を説得できる作家として、なかにし礼氏に台本を依頼し快諾を得、痛快なリブレットを得た。
 作曲を始めるに当たってIDセリーの使用法を更に進め、各主役名の発音のピッチアクセントを取り込んで、長いオペラの構造をより明確にすることができた。第4のオペラ《ワカヒメ》は、は91年秋に完成、92年1月岡山シンフォニーホール開館記念として、なかにし礼演出、指揮に新鋭の飯森範親を起用して初演された。タイトルロールを歌った宇佐美瑠璃は、その後第5・第6作でも私のオペラのヒロインを好演した。私のオペラで常に器楽の主役を担う邦楽器は、この五世紀には考えられず、韓国の伽耶琴が登場して色を添えた。ただ、地方では初演評はなく、次の93年、NHKテレビが録画し、評論家も集まったNHKホールでの東京初演2日目の組で主役の一人の失態に遭わなかったら、日本の最も愛されるオペラの一つとしての位置を築けたものをと悔やむ人が多い。幸い初日にNHKがマルチ録音をしておいてくれたおかげで、私のオペラとして現在唯一のCDが制作され、台本英訳がついていないにも関わらず海外で高評され、5年後の岡山での再演は国内スタッフ間の評判のプロダクションとして語り次がれていると聞く。そして05年、CDで感激した一人であるColin Grahamが作ってくれた英語版を合わせた豪華なヴォーカル・スコアが、福武文化財団や旧友たちの浄財を得てBCAより出版され、広く国際的な上演機会を得る礎ができた。



三木 稔