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三木稔 オペラ日本史連作 作品紹介

 三木稔オペラ日本史連作は、日本の各時代の時代精神を映し、その時代に盛期を持った芸能と関わり、その伝統技術をオペラの伝統技術の新しい血として生かしつつ、三木自身のオペラ様式の確立を計っています。従って、同じ三木作品のフォークオペラなどと違い、音楽化されていないセリフ部分はスコア上ほとんどなく、全曲にわたってほぼ完全に記譜されています。

『三木 稔 日本史オペラ9連作』について

注:《愛怨》初演プログラムの別冊として、新国立劇場上演資料集として新国立劇場情報センターが発行した「三木稔 日本史オペラ8連作 その詳細と作曲者ノート」の原稿より(注:《幸せのパゴダ》完成の5年前の原稿)。

三木 稔

 オペラ《愛怨》の完成によって『三木稔、日本史オペラ8連作』が通貫した。32年を要した私のライフワークの一つである。(注:2010年完成の《幸せのパゴダ》で37年を要した9連作となった)
 15才で海軍将校の卵として終戦を迎えるまでの私は、生家である徳島の織物問屋で祖母たちの筝や三味線をさんざん聞きながら、音楽には関心を示すことのない少年であった。全ての価値観が逆転したその夏から、理論物理学者を夢見つつ旧制高校理科に入って合唱に深入りし、東京芸大を経て30才まではオーケストラのみが音楽だと信じつつ、映画音楽の作曲で、没落した家計の建て直しに狂奔した。30才で邦楽器、そして演劇に出会い、またもや深入り。34才時の日本音楽集団創立以来、伝統と現代のハザマで格闘し、最初のオペラ《春琴抄》を作曲した時、私はすでに45才に達していた。
 その私が、1作書くだけでも精力を使い切ってしまうような現代のオペラを、休むことなく8作も書き続けるとは誰が予想できたであろう。しかしオペラは「そこに山があるから登る」と探検家に言わせるのと同じ意味で作曲家をそそる。一夜の時間と空間を支配する快感はオペラをおいてない。そして美しい富士山を征服したと思ったとき、実は私は遠くにヒマラヤを見てしまった。氷に覆われた尾根がいかに危険であろうとも、8千メートル級の連峰を縦走して初めて国際的な冒険家になれるのだ!

 音楽劇への興味はずっと持ちつづけていて、それは先天的なもののようだが、知識や経験は貧しいものだった。それまでに私が見たオペラは、せいぜい五つくらいだったろう。部分的な音楽の面白さは別として、私はオペラを極めて退屈なものとしか認識していなかったことを告白せねばならない。その理由の一つは、19世紀までの西洋オペラのバックグラウンドが、あまりに日本社会と違いすぎることにあった。もう一つ、これは後に感じるようになったことだが、レベルの高い作者による現代オペラのほぼ全てが一般市民のニーズを無視して、作曲者自身のステイタス保全のために書いているとしか思えないことだ。これでは音楽が好きな日本人がたくさんいても、新しいオペラゴーアーを獲得することは無理ではなかろうか。私は、日本人に密接した題材により、日本の普通の聴衆を対象としながら、外国人にも新しい感動を喚起できる強い印象を持った音楽劇の創造が、この時代、この国に生きる作曲家として自然な行為であると確信している。
 私には、この連作外のオペラ、1986年に自ら創立したオペラシアター歌座(改名予定)でのレパートリーとして積み重ねてきた《うたよみざる》等のフォークオペラ、小オペラ、オペレッタ、合唱劇、モノオペラともいえる歌楽様式の作品群がある。しかし、1500年の日本史を通貫させる私の最大のライフワーク「三木稔、日本史オペラ8連作」の最終作《愛怨》世界初演の機会に、委嘱者である新国立劇場のご好意で、連作について詳述するこの冊子が出版できることを心からお礼申し上げたい。


三木 稔、日本史オペラ9連作

タイトル
(各タイトルをクリックして詳細表示)
題材の
時代
作曲年
上演言語
ワカヒメ (Wakahime)
5世紀
1991年
日本語・英語
岡山シンフォニーホール開館記念委嘱、1992年初演
愛 怨
8世紀
2005年
日本語
新国立劇場委嘱、2006年2月世界初演、2010年2月ハイデルベルク劇場で日本語ヨーロッパ初演
源氏物語(The Tale of Genji)
10世紀
1999年
英語・日本語
セントルイス・オペラ劇場委嘱、2000年世界初演、01年英語で日本初演、08年日本語版でハイライトコンサート
静と義経
12世紀
1993年
日本語
鎌倉芸術館開館記念委嘱、93年初演
隅田川+くさびら
15世紀
1995年
日本語
芸団協30周年記念委嘱、95年初演
じょうるり (Joruri)
17世紀
1985年
英語・日本語
セントルイス・オペラ劇場10周年記念委嘱、
85年世界初演、88年英語で日本初演、2005年日本語版初演
あだ(An Actor's Revenge)
18世紀
1979年
英語・ドイツ語・日本語
イングリッシュ・ミュージックシアター委嘱、79年ロンドンで世界初演、
81年アメリカ初演、84年日本語版初演、87年ドイツ語版初演
春琴抄
19世紀
1975年
日本語
日本オペラ協会委嘱、75年初演。作曲でジロウ・オペラ賞受賞
幸せのパゴダ
20世紀
2010年
日本語
2010年完成。初演は未定

9連作を終えて
 この32年間、オペラ連作とほぼ等量の他の作曲(Opusをつけた作品《愛怨》で139作)、さらに自分が創立または創立に関与した日本音楽集団・歌座・結アンサンブル・オーケストラアジア・オーラJ・アジア アンサンブルの監督やプロデュースに追われ続けてきた。しかし作曲家に限界はなく、山や海の呼び声が鳴り続けている。
 20年も前から公言している巨大な《地球交響曲》は2000年に第一楽章となる《大地の記憶》のみが完成し、第二楽章《風の記憶》、そして全ての言語を包含して究極の平和を祈願する第三楽章を世に問う責任もある。命あれば、オペラでもそれを問わねばならない。二十世紀、あの大戦争の果てに体験した「レヴェンジ意識なき敗戦」をオペラ化したいと気持ちが《愛怨》作曲中から折に触れてうずき、取ろうと思った大休憩や目前にある他の作曲・プロデュース予定などと角を突き合わせていた。
 翻って日本におけるオペラ創作の困難さを思うと途方にくれるが、機会を待って、いやチャンスなどなくても作品は書ける。私にできる全てを捧げられるよう、再びモチヴェーションを高めていきたい。(注:2006年に「北杜国際音楽祭」を創設。08年終わり頃から2010年3月にかけて5回の手術を経験しながら、80歳を過ぎてのオペラ《幸せのパゴダ》完成で、連作は当初の目標であった9作に到達した。)


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